脱げなかった

金曜の夜　彼の送別会があった

私は電車を一本遅らせることになり、少し遅れて会場に入った

すると

？

彼がいない

主賓なのに　どうしたのだろうか


するとこちらから聞く前に誰かが言った

「Aさんは仕事でとんぼ返りしました」

仕事が終わったらすぐにかけつけるとのことだったが

そこにいる人たちは嫌な予感がしていたに違いない

彼は時間にルーズだ

特に

自分のためにとか

あまり気が乗らないときとか

１時間２時間遅れてくることがよくあった

ストレスを感じると頭痛や吐き気が出てくる

頭痛によっては動けなくなるほどらしい

ルーズというより、いろんなことを考えすぎて体が重くなるのではなかろうか

重荷に感じて、それがほんとに重さにかわるような

案の定

最後の料理が出てきても彼は来られず

２０分くらい前にようやく到着し

挨拶をし

料理を書き込み

談笑し

お開きとなった



ほんとは
私にしてはめずらしく　年甲斐もなく

少し頑張っておしゃれしました

お化粧も髪形も

服装も　アクセサリーも

この日に着ていこうって決めて準備して

ただ

ちょっと肌寒かったので

黒いさもないパーカーを羽織って出かけました

駅から徒歩で会場に移動し、汗ばんだけど

会場に入ってからパーカーを脱ぐことができませんでした

パートのおばちゃんたちが案の定私をいじり始めました

「ねえ、ちょっと、今日ずいぶんがんばっちゃったんじゃないの？どうしたの？」

確かに頑張ったけどあんたに言われたくないって思って

「着ようと思っていた服が虫に食われてて仕方なくこれにしてきました」って返答

「えーそうなのー？でもずいぶんがんばってるよねーｗｗ（うけるんだけど）ｗｗ」

そのやり取りでパーカーが脱げなかった

彼がまだ来る前だったけど

もし「がんばってきちゃいました」とか言ったら

「もしかしてAさんのこと好きなの？」とかって言われてまた祭り上げられちゃうから

あたし今までそうならないように地味できたんだったって思いだして

でも

いつかおしゃれした時につけたいなって思っていた手作りのビーズのネックレスは見てもらいたくて
襟元を少し開けて見えるようにするのが精いっぱいで

きれいめの春色のブラウスとか

春物のカーディガンとか

帳消しにしてしまった

それに何より

あたしは自分に魔法をかけていて

ずっと前に両想いの彼を裏切るようなことをして

それ以来そんなことが二度とできないように

地味なスタイルしかできないように自分に魔法をかけた

きっと

魔法の効果で

おしゃれしたら浮いちゃうように見えたのかもしれない

私　何やってんだろ。

勘違いの沼にまた飛び込むところだったね。あぶないあぶない。

あれ。。。

なんで涙がでるんだろ。

なんで、悲しくなってんだろ。

なんで

なんで？

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